2022.7.4. フォークシンガーの山本コウタロー氏(1948-2022)が亡くなった。
1970年、『走れコウタロー』が大ヒット。
バンド「ソルティーシュガー」のメンバーとして、いつも遅刻を繰り返す山本厚太郎を茶化した歌が、本物の同名の競走馬が登場して、そして、時代も美濃部都知事が公営ギャンブルを廃止を宣言し、さまざまなことが重なって重なって、この年の新人賞を総なめにした。その影響は翌年のヒットチャートにまで影響を与えた。
このヒットは凄かった。
当時、まだ小さな子供だった僕でも、途中の「アナウンスや実況」までひと文字も間違えず言えた。いや、当時、世の中全員が言えたと思う。それだけの大ヒット。1970年といえば、大阪万博も開催された年。
経済が超上り調子になって行きはじめた頃。
しかし、その数年前までは、10年ごとの安保改正反対で、69年は東大安田講堂に立てこもる事件まで起き、世界的にもアメリカは泥沼のベトナム戦争から抜け出せなかった。
「戦争が正義」のこうした時代、正義を維持するための安保法が通過する必要があり、そうした「武力に反対」する学生が、またまた武力で抵抗する。もう、まったく、何が正義なのかが分からない時代となった。
この騒ぎにより、東京大学は2年間学生募集を停止した。このあおりをまともに受けたひとりが山本コウタロー氏でもある。都立日比谷高校から上智大学に進み、東大を目指すも、学生募集停止をモロにくらい、仕方なしに一橋大学へ進学していった。本格的なバンド活動は、この上智大学時代から始まる。
<ノンポリ>
心ある当時の学生(?)は、学生運動に積極的に参加していった。そして、各大学や各地で繰り広げられるゲバ活動に参加していく。しかし、単なる傍観者も大勢いた。
当時は、高度経済成長で、中学生が「金の卵」と呼ばれ集団就職をした時代は過ぎ、所得倍増のお陰で、ある程度の給与を手に入れた親は、自分たちの果たせなかった「大学入学」の夢を自分たちの子供に託した。したがって、これほどまでに都市部、特に東京に若者が就職でもなく時間を持て余し気味に集まる元となった。
彼らは、考えのない「ノンポリ」(ポリシーのない)とよばれた。
その内、学生活動も盛んになると、大学も次々封鎖となり、田舎から親の期待を背負い送り出されたノンポリの子供たちは、下宿で同棲生活にズブズブと陥る。
そんな、心情を当時、火がつき始めたジャンル「フォークソング」は歌う。
「あなた、もう忘れたかしら・・・」と歌い始める。
つまり、この時点で過去を思い起こして歌っている。大学封鎖も続き、ベトナム戦争も続き、将来に対して明るい展望を全く持てない。今こうして、学生2人で身を寄せ合っていることさえ、そのうち疑問がわいてくる。そしていつかは別れが訪れる「未来」。
とにかく、こうした心情にはフォークソングというギター1本の形態がよくあう。
フォークソングは、60年代後半、日本に伝わり、その「心情」という表現に至るまでは、コミックソングとしての音楽的な枠組みを獲得していた。
『走れコウタロー』もその枠の中で誕生し、ヒットした1曲。
コミックソングの系譜をその前に辿れば、1967年、加藤和彦も含むフォーククルセイダーズが飛ばした大ヒット『帰ってきたよっぱらい』がある。
この曲は、当時の最新の録音技法をふんだんに盛り込んだため、生演奏が不可能だった。
『走れコウタロー』はセリフも含まれているところから、とにかくこの『帰ってきたよっぱいらい』と同じ系譜の上にある。
<それぞれの別れ>
そして、短い大学生活も終わり、それぞれの田舎に結局は帰っていく。
「大学はでたけれど・・」
結局、中卒と同じ仕事につくわけには行かず、縁故をたよって故郷に帰っていく。なにしろ、勉強したくても大学で講義がなかった時代なのだから、「優秀」と名のつく人間はどこにもいない。散々囂々と散っていく。
同棲の『神田川』の向こうには別れが訪れる。当然、親になど相手を紹介できるはずもないし・・・。
1972年、別れの季節が訪れチューリップは『心の旅』を歌う。
「ああ、だから今夜だけは君を抱いていた・・明日の今頃は、僕は汽車の中」
彼女の方が先に田舎に帰ることもある。
1973年かぐや姫の作品。1975年にイルカがカバーして大ヒットとなった『なごり雪』
大学最後の試験を終えて、3月末に虚しく田舎に帰る。
ただただ季節外れの雪がホームに降っている。一緒にいたときには気がつかなかった、彼女の美しさに別れ際にハッと気がつく。それは見かけだけの問題ではない。
そして、1974年、山本コウタローは自分のバンド「山本コウタローとウィークエンド」で、『走れコータロー』依頼の大ヒット曲を飛ばす。
『岬めぐり』
作詞は、『翼をください』『瀬戸の花嫁』などなど大ヒット曲を手がける山上路夫(1936-)。
この詩には、『心の旅』や『なごり雪』のような具体的な別れが表現されてない。
いっしょに行こうと言っていた岬を1人で訪れる。そこには、別れや失恋などの言葉が全くない。もう、既に別れてしまっている。
「悲しみを胸に沈めたら、僕は街へ帰ろう」
やはり、僕には、別れた悲しみや思い出をこのバス旅で気持ちを押しつぶして、そして新しい旅立ちを無理に決意しようとしているとしか思えない。
ここで詳しく描くわけには行かないが、その後、山本コータローにまつわることは僕の人生の初めの時期にまとわりついてきた。
<不思議なコード>
『岬めぐり』は、当時、まだ和声などを知らない僕にも不思議な和音が響いた。
そもそも、サビの部分が短調!?
なんで?
原調はGmaj。
で、サビの部分は平行調のEminに進んでいる。といっても平行調のVI度の和音に進んでいるのだけど。そして、そこへの入口はVI度調のV度和音、コードネームで言うとB7が使われドミナントモーションによりVI度の和音(Em)に進んでいる。
さらに、この曲は至る所で音楽の基本である「循環コード」(カデンツ)にしたがっていない。いわば、この時代のフォークソングの騎士たちはコード進行など十分に知らず、ある意味見よう見まねで曲を作っている。
循環コードはT-S-D-Tと進む。
そして、S(サブドミナント)にはさまざまな和音があるので、そこには「傾向」というのかS和音の使われる順番がある。理屈を考えれば、それはD(ドミナント)和音にどれだけ近いかによって順番づけられている。
S和音の中でも代表的なものは「IV度」と「II度」の和音。この原調のGmajでいえば、「C」と「Am」のコードになる。
したがって、このS和音を2つ使って循環コードを並べれば、
G → C → Am → D7 → G
となる。CとAmがS和音にあたる。そして、順番はこの順番。
しかし、この曲の2フレーズ目では
Am → C → D7 → G(岬を僕は訪ねてきた)
と進行している。AmとCの順番が逆!!
このAメロの終止もD(ドミナント)により終止をせず、いわば「アーメン終止」をしている。
D7 → C → G (それはかなわないこと)
音楽の基本はドミナントによる終止で、中世の音楽や音楽教育が十分なされない場合、時々ポピュラー曲には、この超古くさい響のするアーメン終止が登場することがよくある。いや、これはロマン派のブラームスも終止で好んで使った終止。D7と解決和音のGの間にS和音であるCを挿入する。
上のコードの正しい並び方は C→D7→G
さらに、サビの部分においても、平行調へ進むためのVI度V度の和音からIV度の和音へ進んでいる。
B7 → C (窓に広がるバスは走る)
ここは通常であればB7→Emへと進進行であるべき。
さらに、サビの後半では、トニックのGのコードから循環コードを形成することなく浮遊したコードがつづく。
C → 「G」 → Am → 「G」(悲しみ深くこの旅沈めたら、この旅終えて)
とGを中心に不安定和音(II度)へと行き来している。
やはり、こうしたコードの動きは重要な歌詞の部分に当たっている。
現代のように、山のようなコードスタイルが築き上げられた時代では珍しいことでもないけど、この時代を考えると非常に斬新。それは、素人だからこそ発想できるコードのつながりに、繰り返し名曲として聞くことで、そうしたものがコードスタイルとして現代では定着している。
<その後の人生は>
非常に紆余曲折とした人生を歩んでいる。といっても、悪い意味ではない。様々な道を歩んで来ている。
婚姻届こそは出していないけど、きちんと上智大学のチャペルで挙式を挙げ、近くの高級ホテルで挙式まで挙げている。その理由は、未だ持って謎。
もともと体が弱く、奥様の食事の効果もあり、それらのことから地球環境学者としていつの間にか地位を確立していました。
コロナの女王岡崎先生でも有名になった白鴎大学の教授にまでなっています。その間に、留学を2度もし、地球環境サミットにも出席するほどのエコロジストになっていた。
それと同時に、ワイドショーの司会や、『渡る世間に・・』にまで俳優として出演している。
ドラマの中でも中年達の集う「渡鬼バンド」としてデビューしている。
『渡鬼・・』は、僕の仕事上でもあるつながりがあり、お世話になった。
そういえば、参議院議員にも出馬して落選している。本当に、いろいろとある。
この後は、白鴎大学の教授を本拠地にし、真面目に勤め上げた。
恐らく、その頃から体調を悪くして、ついには脳内出血ということで、2022年亡くなった。
何度も絡められた山本コウタロー。
『走れ』と『岬めぐり』が同時に頭の中で鳴り響く・・・。
ひとつの時代が過ぎていった。
自分の過去にも映った一時代が。次は自分の時代なのか、それとも、まだ、その間に別な時代が挟まってくるのか・・?
もう、いい加減良い年齢だから。